富士山と富士五湖の情報局

留守が岩

留守が岩

 昔々、河口湖の北岸の大石村で大火事がありました。火は村のほとんどを燃え焦がしいつまでも消えないで、対岸の小湖村からもその燃え様がよく見えました。
 大石村にはおるすというそれは気立てのいい美しい娘が住んでいました。この火事で焼き出された人々は、家を建て直すためによその村からたくさんの大工さんをよびました。その大工さんのなかに、小湖村の幸右衛門というたくましくて心がけのいい若者がいました。
 ふたりはお互いにひかれあい愛しあうようになり、おるすはいつしか幸右衛門のお嫁さんになりだいと思うようになりました。やがて村の家は次々に建ち始め、昔の姿を取り戻し始めました。家ができあがると大工さんたちは、それぞれの村に帰っていきます。おるすに結婚を追られた幸右衛門には、実は許婚者がいました。困った幸右衛門は、百夜の間、湖を渡って通ってきたら結婚しようとおるすに約束して村を去りました。
 その言葉を信じたおるすはその次の日からたらい船に乗って毎夜幸右衛門のところヘ通い始めました。こんな約束守れるはずはないと思っていた幸右衛門は、毎夜通ってくるおるすの執念じみた様子にだんだんと恐れを抱くようになってきました。
そして百日目の夜、嵐の吹き荒れる夜、湖を渡ってくるおるすがいつも目印にしていた勝山明神の灯明を消してしまえば、今夜は渡ってこないだろうと考えた幸右衛門は、その灯明を消してしまったのです。
 目印を失ったおるすは湖の真ん中で嵐に漂いながら目当てを失い、帰ることもできぬまま岩にぶつかり、とうとう湖に沈んでしまいました。
 翌朝、おるすの死を知った幸右衛門は、あの嵐のなかを自分を思うあまり、たらい船を出していたおるすの気持を知り、たまらなくなって自分も湖に身を投げて後を追ったのです。
 それから、誰が言うともなくその岩を「るすが岩」と呼ぶようになりました。


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